「なぜBybitは、わずか半年の間にWeb3事業を大きく縮小することになったのか?」
サコインが上場した2024年12月当時、Bybitは「取引高世界2位の取引所」であり、Web3ウォレットやDEX Proの機能を備えたアプリはホルダーにとって欠かせない存在だった。ところが2025年2月のアプリ削除とハッキング事件を皮切りに、春には主要なWeb3サービスが相次いで終了。利用者にとって環境は激変した。
この記事では、サコインホルダーとして実際にBybit Walletを利用し、Phantom Walletへ資産を移行した当事者の視点から、この一連の出来事を時系列で整理する。さらに、日本の規制環境やCEX/Web3ウォレットの役割を踏まえ、今ホルダーにとって現実的な選択肢と、Bybitの変化が示す教訓を考えていく。
2024年12月:サコイン上場とBybitの存在感
サコインのAirDrop参加条件として、Bybitアカウントとアプリ、そしてWeb3ウォレットの作成が推奨された。
Bybit Walletには「シードフレーズ型」「Keyless Wallet」「Cloud Wallet」の3種類が用意され、サコインの運営としては自己管理が可能なシードフレーズ型が推奨されていた。
当時のマーケティングでは「取引高世界2位のBybit、そのWeb3 DEX Proで取引できる」という点が強調され、投資家の安心材料となった。
初心者にはBybit Wallet、より高度な取引や運用にはPhantom Walletというすみ分けも見られた。
2025年2月:規制によるアプリ削除
2025年2月、金融庁は未登録業者としてBybitやBitget、MEXCなどを名指しし、国内ユーザーに利用を控えるよう警告を出した。これを受け、日本のApp StoreやGoogle PlayからはBybitやBitget、MEXCの取引所アプリが削除された。
Bitgetの場合は「取引所アプリ」と「Bitget Wallet」が分離していたため、ウォレットは引き続き利用できた。
しかしBybitは取引所機能とWeb3ウォレットが一体化していたため、削除と同時に両方が利用できなくなるという大きな影響が生じた。
個人的には、US版App Storeアカウントを利用してBybitアプリを継続利用していた。
この方法については 👉
別記事【2025年版】Apple ID海外アカウントの作り方|規制アプリもダウンロード可能に で詳しく解説している。
また、この時期に規制を受けた取引所アプリを比較してみると、Bybit・Bitget・MEXCの3つはそれぞれ異なる特徴や個性があり、単なる「禁止された海外アプリ」以上の価値を持っていたと感じていた。Bybit以外では、Bitgetは分離型ウォレット、MEXCは新興銘柄の上場力と、強みは三者三様だった。
2025年2月:大規模ハッキング事件
同じ2月、Bybitは約14〜15億ドル規模の暗号資産流出事件に見舞われた。北朝鮮系とされるハッカー集団Lazarusの関与が指摘され、FBIも調査に乗り出す事態となった。Bybit側は「顧客資産は保全されている」と発表したが、投資家心理には大きな不安が広がった。
2025年3月:AirDrop配布の混乱とウォレット移行
そのころ、サコイン村ではちょっとしたドタバタ劇が繰り広げられていた。
めざましビクトリーやつみあげビクトリーといった月額サービスでは、毎月20,000円の会費を払ってミッションを達成すると最大30,000円分のサコインがAirDropされる仕組みがあった。振り込み先は当初Bybit Walletに設定されていたが、2月のアプリ削除を受けて、急きょ3月からPhantom Wallet宛への配布に変更された。
しかし急な対応だったため、過渡期には「Bybit WalletとPhantom Walletの両方に同額が配布される」という二重配布が発生。運営も「Bybit Walletは忘れてください」と呼びかけるしかない状況だった。
村内でも混乱が広がり、迫君はもともとBybit Walletの作り方を動画教材として用意していたが、急きょPhantom Wallet版を撮り直して差し替える羽目になった。 まさに現場での対応力が試された瞬間だった。
さらに印象的だったのは、迫君が「Phantom Walletをメインとしていた成道だけギリギリセーフ」と語っていたことだ。慌ただしい中にも笑い話のように共有され、コミュニティならではの一体感も生まれていた。
僕自身は二重配布を“太っ腹な対応”だと感じつつ、このタイミングでBybit WalletからPhantom Walletへの完全移行を実施した。
2025年4月〜5月:Bybit Web3事業の縮小
📢 Important Notice for Bybit Web3 Users
— Bybit Web3 (@Bybit_Web3) April 16, 2025
As part of ongoing product optimization, several Web3 services — including Cloud Wallet, Keyless Wallet, DEX Pro, Swap & Bridge, and NFT Marketplace — will be discontinued by May 31, 2025.
Please review the full announcement and take… pic.twitter.com/q8SRnedTmo
4月に入るとBybitはWeb3事業の縮小を本格化させた。NFT MarketplaceやInscription Marketplaceの停止に続き、4月16日にはCloud Wallet、Keyless Wallet、DEX Pro、Swap & Bridgeといった主要サービスの終了を発表。5月31日にはこれらが正式に停止され、残されたのはシードフレーズ型ウォレットと一部のStaking機能のみとなった。
ここで大きな問題となったのは、どの方式でウォレットを作っていたかで運命が分かれた点である。
- シードフレーズ型:資産を自己管理できる、この形式のみ存続した。
- Cloud/Keyless型:2か月未満で資産を移動しなければ、実質的にBybitに没収される構図。
個人的な推測としては、2月のハッキングの影響を埋め合わせるために、Cloud WalletやKeyless Walletに残っていた資産が“回収”されたのではないか、と疑わざるを得ない状況だった。
2025年7月:ギリシャでの資産凍結
7月、ギリシャのAML当局はBybitハッキングで盗まれた資金の一部を凍結した。Chainalysisなどのブロックチェーン分析を通じ、ギリシャ国内の取引所に不審なETHが流入していることが発覚したためだ。凍結規模は数千万ドルにのぼり、全体から見れば一部にすぎないものの、ギリシャでの「初の暗号資産押収」として意義深い事例となった。
2025年9月時点の規制状況
2025年9月の時点で、金融庁の規制は2月から大きく変わっていない。対応としてはApp StoreやGoogle Playからの削除にとどまり、日本からのIPブロックや利用禁止といった強力な制限は発動されていない。つまり、現状でも日本のユーザーは海外CEXにアクセス自体は可能である。
ただし、「日本円と暗号資産の接点」には依然として厳しい制約が残っている。日本円から暗号資産を直接購入できる仕組みは金融庁の登録業者に限定され、海外CEXが提供するP2P取引やクレジットカード決済はグレーゾーン扱いとなっている。
結果として、多くの投資家は国内CEXで日本円をSOLなどに変え、それをWeb3ウォレット経由で海外CEXへ送る、という流れを取らざるを得ない。
さらに2025年2月には、金融庁が未登録業者としてBybit・Bitget・MEXCを名指しで警告し、利用を控えるよう呼びかけた。これを受け、BybitやBitgetの取引所アプリは日本のApp StoreやGoogle Playから削除され、ユーザーにとっては大きな転換点となった。
そのうえで世界基準のCEX環境を整理すると、日本から直接利用できる代表的な取引所は、依然としてBybit・Bitget・MEXCの3社とも言える。
一方でBinanceやOKXといった世界大手は、日本法人を設立して規制をクリアする形を選んだため、グローバル版には日本からアクセスできない。さらにCoinbase、Kraken、Gate.ioなどは日本市場から撤退している。
結果として、日本の投資家は「世界の標準的なCEXのフル機能」から締め出され、限られた選択肢しか持てない二重構造に置かれているのが現状だ。
金融庁規制の本質
金融庁が特に重視しているのは「法定通貨と暗号資産の接点」である。取引そのものを禁止しているわけではなく、日本円と暗号資産の交換を厳格に管理している点が特徴的だ。
円から暗号資産への入口
海外CEXはこれまで、P2P取引やクレジットカード決済といった手段を通じて、日本円からUSDTなどを購入できるルートを提供してきた。
これは「日本円→暗号資産」の入口を海外から直接開放していることになり、未登録で交換業を行っていると見なされて警告を受けていると考えられる。
暗号資産から円への出口
一方で「暗号資産→日本円」の出口は海外CEXでは用意されていない。日本円に戻すためには、OKJ(OKCoin Japan)、GMOコイン、Bitpointなど国内の登録取引所を必ず経由する必要がある。つまり、出口は国内に独占的に集約されている。
送金時の国境管理
国内CEXから海外CEXへ送金する際には、宛先の国属性がチェックされる。
送金先が米国拠点と判定されればブロックされるなど、国際的なコンプライアンスが反映されている。
国内CEXは単なる送金窓口ではなく、規制のフィルターとして機能しているのだ。
Web3ウォレットの自由度
Phantom Walletのような非カストディアル型ウォレットは、国という属性を持たない。
そのため「国内CEX ⇄ Phantom Wallet ⇄ 海外CEX」というルートであれば国境規制の影響を受けず、送金コストの面でも有利になるケースが多い。
特にSolanaチェーンは送金スピードが速く、手数料も低いため、実務上の利便性が高い。
Bybit Web3ウォレットの現状と移行先
BybitのWeb3ウォレットについては、状況が大きく変化している。
- DEX Proに接続できなくなり、ウォレット単体の存在意義は減少した。
- Phantom WalletのようにJupiterなどのDEXに接続することは可能だが、Bybitアプリ内で完結していたユーザーには認知されていない可能性がある。
- 日本ではChrome拡張版を通じて利用は続けられるものの、ここまで撤退や縮小が続くとサポート面での不安は拭えない。
移行先としては:
- Solana専用で使う場合 → Phantom Wallet
- CEXと連動し、多数のブロックチェーンに対応したい場合 → Bitget Wallet
Bybitが今後Web3にどう取り組むかは不透明だが、少なくとも日本人にとって「取引所アプリ一体型のWeb3ウォレット」は使いにくい形態であることは明らかだ。Bitgetのようにアプリを分ける形が望ましかったのではないかと個人的には感じている。
サコインホルダーにとっての現実的な選択肢
ここでいう CEX(Centralized Exchange/中央集権型取引所) とは、BybitやBinanceのように運営会社が存在し、KYCを通じて売買を行う取引所を指す。一方でDEX(分散型取引所)は、ウォレット同士で直接暗号資産を交換できる仕組みであり、中央管理者がいない点が異なる。
サコインホルダーにとって、現実的な選択肢は次のとおりだ。
- 国内CEX:OKJ(OKCoin Japan)
日本円⇄暗号資産ルートを確保する基本口座。 - 海外CEX:MEXC
2025年5月にサコインが上場。サコイン⇄USDT直接変換が可能。現行の御用達CEX。 - Web3ウォレット:Phantom Wallet
非カストディアルで国境制約を受けず、国内CEXと海外CEXをつなぐハブ。Solanaの高速・低コスト送金が強み。 - DEX:OrcaやJupiter
ウォレット内で直接スワップ可能。流動性や板の厚さはCEXに劣るが、自由度の高さは魅力。
👉 詳細な比較や使い方については別記事で解説予定。
Bybitの変化が示した教訓
Bybitの一連の変化は、サコインホルダーにとって「安全と利便性をどう確保するか」を考えさせる出来事だった。
当初は「大手CEXに依存していれば安心」という空気があったが、Web3機能の終了はその前提を崩した。浮かび上がったのは、
- 国内CEXで円ルートを確保
- ウォレットで資産を自己管理
- 必要に応じてDEXを利用
- 投資の幅を広げたいときは海外CEXを活用
という複数の柱を組み合わせる現実的な戦略である。
一方で忘れてはならないのは、Bybit自体は依然として取引高世界2位を誇るCEXであり、グローバル投資家にとって依然重要な選択肢であるという点だ。Web3事業は縮小したものの、CEXとしての強みは健在だ。
まとめ
BybitのWeb3事業縮小は、サコインホルダーにとって単なる取引所のニュース以上の意味を持っていた。AirDropの受け取りから資産管理、そして日常的な取引に至るまで、当初はBybitアプリひとつで完結できる環境が整っていた。しかし、規制によるアプリ削除、ハッキング事件、そして主要サービスの終了が続いたことで、その前提は大きく崩れた。
個人的な意見として、多くの機能を1つのアプリに集約していたBybitの時代は、非常に便利で素晴らしかったと思う。ウォレット機能、スワップ、送金、チャートの確認まですべてを一括で行える利便性は、他に類を見ない完成度だった。しかしその機能が今は使えない以上、これからは「機能ごとに特化したツールを選び、組み合わせて使う」姿勢が重要になると考えている。
具体的には、
- 国内CEXで日本円との交換ルートを確保する。
- ウォレットで資産を自分の手で守る。
- 必要に応じてDEXを使えば、取引所に依存せずに暗号資産を交換できる。
- さらに投資の幅を広げたいときには、海外CEXを利用して多くの銘柄や取引チャンスにアクセスする。
こうした複数の選択肢を持ち、それぞれの役割を理解して組み合わせることが、今後の暗号資産投資において現実的で安全な戦略になる。
サコイン村で起きた「AirDrop大移動事件」は、当時はバタバタの連続だったが、結果として「ユーザーが自ら資産の置き場所を考え直す」きっかけにもなった。環境が変われば慌ただしい対応を迫られることもあるが、その経験は将来必ず役に立つはずだ。
まとめると、Bybitの変化はサコインホルダーにとって“試練”であると同時に、“自立”への転換点でもあった。 今後も規制や市場の変動は避けられないが、「取引所に頼る」から「自分で選び、自分で守る」への意識転換こそが最も大切だと感じている。
そして最後に――僕自身が現在メインで利用しているツールや環境については、今後改めて別記事で具体的にシェアしていきたいと思う。